クロザピン(クロザリル)とは
統合失調症の治療において、これまで多くの優れたお薬が開発されてきました。それでも中には、いくつかの薬を試してもなかなか効果が得られず、長く苦しい思いをされる方もいらっしゃいます。そんなときに検討されるのが、**「クロザピン(商品名:クロザリル)」**というお薬です。
クロザピンは、治療抵抗性統合失調症と呼ばれる、通常の抗精神病薬では改善が難しい方に対して効果が認められている、唯一の薬です。海外ではアメリカやイギリスをはじめ、現在では100か国以上で広く使用され、日本でも臨床研究により半数以上の方に改善がみられたと報告されています。
クロザピンを始めることで、「もう何をしても良くならない」と感じていた方が、少しずつ笑顔を取り戻したり、家族との時間を楽しめるようになったりすることがあります。もちろん、すべての方に必ず合うわけではありませんが、医療チームと相談しながら慎重に進めることで、新しい一歩を踏み出せる可能性があります。
治療抵抗性統合失調症とは
複数の抗精神病薬を十分な量・十分な期間使っても症状が改善しない、あるいは副作用のために服薬を続けられない、そのような状態を「治療抵抗性統合失調症」と呼びます。クロザピンは、まさにこのような方々のために開発された薬です。
クロザピンの効果と注意点
クロザピンは高い効果が期待できる一方で、白血球減少や心筋炎、高血糖などの重い副作用が起こることがあります。そのため、定期的な血液検査が義務づけられています。また、治療を安全に進めるため、治療開始から18週間は入院での経過観察が必要です。
当院では、万が一副作用が出た際にも迅速に対応できるよう、慶應義塾大学病院と覚書を締結し、院内の内科医・薬剤師・看護師と連携しながら、安全で丁寧な治療を行っています。
クロザリル患者モニタリングサービス(CPMS)
クロザピンは、全国的な管理システムである**「CPMS(Clozaril Patient Monitoring Service)」**のもとで運用されています。この制度により、登録された医師・薬剤師・コーディネーターが協力して、患者さんの健康状態を継続的に見守ります。
また、クロザピンを処方できるのは、専用の講習を受け、試験を通過した登録医師のみです。治療を行う医療機関も、
- 採血結果を当日に確認できること
- 好中球減少などへの対応体制があること
- 糖尿病内科医との連携が可能であること
- 登録医・薬剤師・コーディネーターが複数名在籍していること
などの条件を満たす必要があります。
当院はこれらの要件をすべて満たしており、クロザピン治療を安全に行える医療機関です。
クロザピン外来について
当院では、2023年3月より「クロザピン外来」を開設しております。この外来では、クロザピン治療の導入を検討されている方に対して、薬の適応や導入の可否を医師が判断します。導入は原則として入院での治療となります。
治療をご希望の方は、まずはかかりつけの主治医の先生にご相談のうえ、当院の地域医療連携センターまでお問い合わせください。
おわりに
クロザピンは、長いあいだ症状に悩まれてきた方にとって、新しい可能性をひらく薬です。
私たちは、患者さんとご家族が少しでも穏やかな日々を過ごせるよう、精神科・内科・薬剤部が一体となって、安全で温かい医療を提供してまいります。
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