眠れない夜が続くときに
眠れない夜が続くと、体だけでなく心も疲れてしまいます。「寝たいのに眠れない」「朝早く目が覚めてしまう」「寝てもぐっすり感がない」――そんなお悩みを抱える方は、実はとても多くいらっしゃいます。
不眠は単に「睡眠の問題」だけでなく、ストレス・心の不調・生活リズム・体の病気など、さまざまな要因が複雑に関係して起こります。そのため、眠れないことを「根性」や「気の持ちよう」で解決しようとすると、かえってつらさが増してしまうことがあります。
不眠のタイプ
ひと口に「不眠」といっても、いくつかの種類があります。
- 入眠困難:寝つくまでに時間がかかる
- 中途覚醒:夜中に何度も目が覚める
- 早朝覚醒:朝早く目が覚めてしまう
- 熟眠障害:眠ったのに疲れが取れない
原因や背景は人によって異なります。生活リズムや性格傾向、ストレス、精神疾患、さらには身体疾患や服薬の影響が関係している場合もあります。
薬だけに頼らない「眠りの治療」
不眠の治療といえば睡眠薬を飲むことを思いつく方が多いと思いますが、それだけでは不十分な場合や、逆に睡眠薬を使わなくとも治すことができる場合があります。睡眠薬による治療以外で特に効果が認められているのが、**睡眠の行動療法(CBT-I:認知行動療法)**です。
具体的には以下のような方法を取り入れています。
臥床時間制限法
横になっている時間を減らし、眠れない時間を減らすことで、睡眠の「密度」を高める方法です。眠れない方の多くが早く布団に入ることを考えがちですが、むしろ制限することで改善することがあります。
刺激制御法
布団では「眠ること」以外をしないようにすることで、脳に「布団=眠る場所」という習慣を再び学習させます。
リラクゼーション法や思考整理
眠る前に頭がぐるぐるしてしまう方には、呼吸法やマインドフルネス、あるいは「寝る前の考え方」を変える練習も取り入れます。
入院による「生活全体の見直し」
当院の強みは、入院によって生活そのものを整える治療ができることです。外来での治療だけでは、どうしても「夜だけ改善したい」と思ってしまいがちですが、本当の回復には朝の起き方・昼間の活動・心の状態まで含めた「24時間のリズム」が大切です。
入院治療では、
- 毎朝の起床時間・食事時間・就寝時間を一定に保つ
- 日中は太陽光を浴び、体を動かす
- 看護師やスタッフと一緒に生活リズムを整える
などのサポートを受けながら、“眠れる体のリズム”を取り戻すことができます。
また、不眠の背景にうつ病や不安症、ストレス性障害や統合失調症などがある場合も、必要に応じてお薬の調整や心理的支援を行いつつ総合的に治療していきます。
「眠る力」を取り戻すために
不眠は、誰にでも起こりうることです。そして、適切な治療を行えば、少しずつ「眠る力」を取り戻していくことができます。
当院では、外来・入院の両面から、一人ひとりの生活と心に寄り添った睡眠治療を行っています。不眠にお悩みの方は、どうぞ一人で抱え込まずにご相談ください。
このコラムを書いた人
精神科
三輪 泰暉
- 日本精神神経学会


